スマートSSL 完全な秘匿通信を目指して(2016秋号)

<はじめに>
今年、最も尊敬する2 人の師が続けて世を去った。
一人は人工知能の父と言われたマーヴィン・ミンスキー博士※1 である。筆者は1987 年、機械工学と人工知能(AI)の研究を目的として渡米しマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学した。その頃、MIT においては、ミンスキー博士の人工知能理論とその研究熱が大学全体を包み込んでおり、筆者もミンスキー博士の謦咳を受け、博士の夢を一緒に実現させていただきたいと願ったものだ。ミンスキー博士は一般向けにも「The Society of Mind※2」という著書を著しており、おそらく世界中のほとんどの人工知能研究者はこの本を手にしたことがあるに違いない。博士は一貫して、「人間の思考およびその仕組みを解明して、将来の真の人工知能開発に繋げる」ことを信条としておられた。知能とは何であるか定義さえも曖昧な中で、博士と大勢の弟子達の努力の結果、人間の思考の仕組みを解明する扉が開かれた。一方で、思考の仕組みなどわからなくても、人間の脳のような機能をコンピュータ上で実現すれば、人間のような思考機能を持つコンピュータを作れるのではないかという、もう一つの人工知能研究が続けられてきた結果、80 年代のコンピューティングパワーでは実現できなかった学習機能が、近年ディープラーニング※3 という形で実現しつつある。最近はプロの囲碁棋士に勝利し新たなブームになっている。目的を限定すればかなり優秀な学習能力を示すが、往年のミンスキー博士の言葉が頭から離れない。それは、「思考の仕組みさえ分からないまま開発して、本当に人間のためになる人工知能が開発できるのか?理論も無く、たまたま成功した機能(結果)だけを追い求める研究には、底流に危うさがある。」という言葉である。この言葉はこれからも人工知能にかかわる研究者がいつも胸に刻んでおきたい警句である。晩年は「感情を持つ機械」の実現に没頭しておられた。師の最終の研究成果を見てみたかったと思うのは筆者一人ではないであろう。
そしてもう一人4 月1 日、日本が生んだ天才科学者であった増淵興一博士が生涯を閉じた。日本ではあまり知られていないが、サターンⅤ型ロケット※4 が月に行くために決定的な役割を果たした偉人である。60 年代中に人類を月面に到達させるという故ケネディー大統領と全アメリカ人の夢は、水素を原料とするロケットエンジンの開発の遅れで、絶体絶命の危機に瀕していた。極小の分子構造を持つ水素を閉じ込めるタンクが容易に作れなかったのである。これを救ったのが当時バテル記念研究所※5 に所属していた増淵博士であった。若い頃東京大学の学生として学徒出陣し、海軍で軍艦の建造に携わった経験から、世界最高の溶接技術とその解析方法を身につけていた博士は、この時もコンピュータなど使わず、手計算だけで答えを導き世界を驚かせた。これが契機となってMIT に招聘され、日本出身の教授として史上最高位の名誉教授にまで上り詰めた。当時、ミンスキー博士の多くの弟子の一人として、人工知能の研究に没頭していた筆者は、増淵博士からのご推薦のお陰で、NASA の宇宙開発における人工知能利用の可能性についての研究の末席に加わらせて頂いた。宇宙船または宇宙基地において、地球との通信機能が損なわれる事故があった場合、機能回復にAI にサポートさせると言う現実的な研究であり、多少なりともその後の宇宙開発に貢献できたものと思う。後に世界初の人工知能が無事に宇宙に旅立ったとの報告を聞いた。
いつも人類の未来を見据え、もっとも難解な問題に向き合う勇気を示してきた偉大なお二人と多くの先輩方のお陰で、目先の新しい理論に振り回されず、基礎の積み重ねと自分の直感を信じることが、真の発見に繋げられることを教わり、これを実践した結果、秘匿通信において中間者攻撃(man-in-the-middle attack、MITMA)※6 を防御する究極の暗号通信技術を開発することが出来た。ここに感謝の気持ちを込めて、お二人のご冥福を謹んでお祈り申し上げます。

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