IoTの実現にセキュリティの確立を Future IoT with VR・AR(2016冬号)

<はじめに>
2009 年12 月8 日午前5 時21 分、愛知県西部、三重県北部、岐阜県西部で供給電力の電圧が瞬間的(0.07秒程度)に低下した。この電力供給トラブルに伴い、東芝四日市工場(三重県四日市市)の主力製品の“NANDフラッシュメモリー”の生産が操業停止となり、翌年1 月から2 月にかけてNANDフラッシュメモリーの出荷量が大きく落ち込み、100 億円程前後の減収となった。
現代の産業の多くは、国中に張り巡らされた電力ネットワークによって供給される電力に依存している。この四日市瞬時電圧低下事故のようなほんの一瞬のトラブルでも、最新鋭工場が停止してしまう事を広く知らしめた。先日の埼玉県新座市の変電所送電ケーブル火災事故で、最大約58万6800戸が停電し、中央省庁が集まる霞が関まで被害が及び、サーバーがダウンした役所もあったという。米国では、サイバー攻撃が物理的な部品を破壊できるかを確かめるために、アイダホにある INL(Idaho National Laboratory)という研究所によって、2007 年3 月に「Aurora Generator Test※1」と呼ばれる実験が行われた。27 トンもある巨大なディーゼル発電機を実験用に設置し、停電と通電を繰り返し、発電機を故障させることができるかを確かめようとした。そしてたった数度の停電と通電の繰り返しで、発電機は、大きく振動した後異常な煙を吐き出し動かなくなった。実験のため攻撃は一定のサイクルで行われたが、実際の攻撃ではもっと効果的に短時間で破壊することができたと考えられている。すでに、米国のダム管理システムが、イランのハッカーによる攻撃を受けたことが報道されており、また、2015 年12 月23 日のウクライナの西部の都市イヴァーノ=フランキーウシクでの停電では、ウクライナとの間で問題を抱えているロシアのインテリジェンス機関の関与が疑われている。
このように、一般報道によって私たちが知り得る情報だけを考慮しても、現代社会はセキュリティ面で極めて脆弱なインフラに依存していることが分かる。すでに世界中がインターネットで繋がり、今では、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うというIoT(Internet of Things)の時代が喧伝されている。IoTは近未来のインフラの要ともなり、電力網をはじめとする社会・公共インフラの常時監視や交通状況の制御、医療のリアルタイム化などが今にも実現されると言われ、この分野は、ブロックチェーンやAI(人工知能)に並んで有望視されており、巨額の投資も行われようとしている。
同様に、自動車の自動運転や、スマートグリッドの分野でも、IoTが大きな変革をもたらすと目され大規模な投資を呼び込んでいる。しかしながらこれらもIoTが持つ上述の如きリスクをはらむ。以下これらを例に挙げ、IoTがもたらす世界と、そのリスクについて考察する。

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