サイバーセキュリティの本質を探る ピア・トゥ・ピアの衝撃(2017冬号)

<はじめに>
ネットワーク上の盗難被害額が2009年当時全世界で1 兆ドルにもなることを以前書かせていただいたが、クレジットカード被害額はさらに2 兆ドルにのぼると言われている。日本クレジット協会によると日本でも今年1~6月の被害額は118億2千万円(前年同期比で45億5千万円増)と言う※1。世界中セキュリティに莫大な費用をかけ対策を行っているというのに一体どういう事であろうか?
筆者はインターネットがほぼ完成した1980 年代の終わりに渡米し、広く普及する直前期に開発が目の前で行われていく様子を見させていただいた。最初は全米で使われていたIBMのコンピュータとMIT(マサチューセッツ工科大学)の地下室でケン・オルセン等によって開発されミニコンピュータのスタンダードであったDECのコンピュータの間でさえデータを移動させるのは面倒で、再度キーボードで打ち込まなければならなかったものを、互いに理解できるプロトコルを採用することで、互いがつながるようになった。特に、MITの同窓会会長を一時期務めたロバート・メランクトン・メトカーフ(Robert Melancton Metcalfe)等によるイーサネットや、ヴィントン・グレイ・サーフ(Vinton Gray Cerf)等によるTCP/IPプロトコルの発明を経て、1983年頃からネットワーク同士がつながるインターネット上でもコンピュータ同士が通信できるようになった。しかしながら当時は暗号技術も完成しておらず、セキュリティに不安を残したままで世界中に普及することとなった。それでもその後ハイパーテキスト転送プロトコル (HTTP、Hypertext Transfer Protocol)やWEBブラウザが導入されると、一般の人々まで広く使われるようになった。さらに1994年の筆者等のASP(Application Service Provider)の考案に端を発するクラウドコンピューティングが普及し、そのキラーデバイスとしてスマートフォンが登場するとこの流れは決定的となった。今でもセキュリティに関する不安を口にする人は多いが、圧倒的な利便性の前に根本的な解決を待つまでもなく、インターネットなしではビジネスはおろか生活さえできないという人まで現れ始めている。
それ故に上記の数兆ドルという損害はまだまだ拡大すると考えられるが、本当に根本的対策はなく、必要コストとして社会が負担し続けなければならないものなのであろうか?

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